利用事例

連載11回:株式会社 パスコ 様

光と電波で地表をキャッチ、AI解析で災害情報も迅速に

 2020年、海外で初の民間宇宙船が有人飛行を成し遂げたのは記憶に新しいところです。わが国でも、近年は国を挙げての宇宙産業ビジョンの策定がなされ、政府保有の衛星を中心にそのデータ活用も進んできました。戦後まもなく航空測量からはじまった株式会社パスコ様では、早くから衛星画像・航空画像をAIで解析する取組みを行っておりその成果を着実に事業に反映してきました。同社のこれまでの取組みや今後について、担当の島崎様ほか開発チームの皆様に伺いました。


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株式会社 パスコ

AIソリューション部

伊東 里保 様(左)、 部長  島崎 康信 様(中央)、 カミングス ソール 様(右)


災害対応に不可欠な空間情報のスペシャリスト


― 本日はよろしくお願いします。早速ですがパスコさんの事業について教えていただけますか?

島崎 康信(以下、島崎):

はい、パスコは1953年に創業しておりまして、結構古い会社になります。もともとは航空測量から事業を始めたのですが、現在は航空測量だけではなくて、人工衛星とかドローンとか、あとは、専用の計測車両の開発運用、海洋の船舶からのセンサーなど、あらゆるセンサーを用いて、空間情報を収集し解析するといったサービスを、国内はもちろん海外にも展開しています。

「空間情報」というのは、大きくはリモートセンシングという枠組みになりまして、いま言った航空機や衛星などの様々なプラットフォームに積まれたセンサーによって、物体に直接触らないで計測した情報全般になります。


― 具体的にはどんなような情報を扱うのでしょうか?

島崎:

具体的には、地形や地表の構造物、植生の情報などを扱うことが多いですね。

ことに、災害などの緊急対応では衛星や航空機から撮影した画像が非常に良く使われています。直近だと、先日の2020年7月豪雨でも、衛星を使って緊急撮影した被災地の画像を、自治体の方ですとか中央省庁の方に迅速にお届けしたりしました。

また、昨年では九州北部の豪雨ですとか、台風15号、19号の豪雨災害とかありまして、河川の氾濫も非常に広域で起こりました。その時もどこで土砂災害が起こっているのかとか、どれくらい浸水しているのかということを把握するうえで当社の技術が非常に貢献しています。


衛星からの光と電波で漏れなく地表をとらえる


― 測量のための衛星ってどんな衛星なんでしょうか?

島崎:

一般的に衛星というとなじみのあるのは気象衛星「ひまわり」になるかと思います。「ひまわり」は静止衛星として、静止軌道上から雲の動きとかを捉え続けるのですけれども、どうしても解像度が粗くて、なかなか地上を正確に捉えるということができないですね。

それに対して、もっと低い高度の衛星軌道を回って高解像度の画像を取得できる地球観測衛星があって、当社では、JAXA衛星のだいち2号(ALOS-2)ですとか海外だとフランスのエアバス社の観測衛星(SPOT・Pleiades)などを取り扱っています。衛星の種類にもよるのですが、私たちが毎日のように使っているもの(SPOT衛星)は地表の1.5m程度の物体まで判別できますし、さらに高い解像度のものであれば30cmのものまで撮ることができます。

あと、センサーの種類で言いますと、人が見たのと同じようにカメラで画像を撮影できる光学衛星と、衛星からマイクロ波を照射して、その反射してきた電波から地物を計測する合成開口レーダ(SAR)衛星という大きく2種類の観測衛星があります。当社ではそれら光学の画像と、合成開口レーダの画像をうまく組合せて情報を収集しています。


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― レーダでも地表の様子がわかるんですね。でも光学画像とどんなふうに違うんでしょうか?

島崎:

そうですね、合成開口レーダは電波ですので、減衰はあるのですが雲を透過して地表を捉えることができます。ですので、気象条件によらず、時間帯にもよらず計測ができるっていうのが一番のメリットですね。豪雨災害の対応でも、台風であれば通過したあとに晴れたりするので光学画像でもよく撮れるのですが、7月の梅雨みたいな豪雨だとなかなか雲が晴れなくて光学の画像が撮れないので、合成開口レーダの画像で解析を行ったりしています。

ただ、やっぱり合成開口レーダの画像というのは写真ではないので、経験を積んだ技術者でないと判読や分析が難しいところがあるんです。通常、画像で見ますとモノクロの何が写っているかよくわからないっていう画像になるんですけれども、実は地物の凹凸を捉えていたり、水面ですとか、反射の強い人工物とかを捉えてたりしますので、そこから被覆の状態を把握したり、浸水の範囲を特定したり、土砂崩れのエリアを特定したりということを解析しています。

今はそれらをAIで、経験豊富な技術者と同じような判読ができないかということで広く研究/開発を進めています。


衛星画像の受信から判読、提供までを自動化


― なるほど。そういった画像判読などでAIを活用されているんですね。

島崎:

そうですね。光学画像の場合も同じで、今までですと長年経験を積んだ技術者が、画像を判読して解析結果を作るということをしていたんでが、やはりそれにもベテランの技術者を短期間に何人も入れなければならないので、特に災害時はなかなか手が回らないという問題がありました。

現在は、インフラも含めてなるべく人手を介さない形に整備していて、衛星画像を地上局で受信した後に、その画像を直接サーバーに転送して、サーバー内のAIで画像判読を処理する。そして、その結果を画像も含めてクラウドからダウンロードするというところまで自動的に行い、お客様により速く情報提供できるような仕組みづくりを進めています。

例えば、2018年9月の北海道胆振(いぶり)東部地震の際にはかなり広域に土砂崩壊が発生しましたが、それが実際どこで崩壊しているのかをAIを用いて衛星画像を判読して、早いタイミングで関係機関にお届けすることができました。


― 災害対応以外ではどんな分野で活用されているんでしょう?

島崎:

はい、航空写真の事例ですが、固定資産業務を中心に、依頼のあった地域の建物の変化状況を判読したり、森林の分野では樹種判読といって、国内の森林資源の管理という観点でどこにどれくらいの種類の樹木があるのかといったことを判読する業務などもあります。

今までですとそれらも、人が航空写真を見比べながら、新しい建物が建ったとか、なくなっただとか判読していました。樹種についても、航空写真からの樹種の判読は、経験を積んだ技術者でないと難しかったんですが、AIで代替することで、人の作業も軽減できて一連の処理もかなり速くできるようになりました。


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最大幅数万ピクセルにも及ぶ衛星画像


― AIを活用していこうという取組はいつ頃から始められたのですか?

島崎:

AI、こと深層学習に対して注目を始めたのは2013年からになりますので、同業他社さんと比べても比較的早い時期だったと思います。画像認識に関しては、わたくしどもが航空写真ですとか衛星画像を主体に業務を行っていたので、深層学習との親和性が非常に高いというのがあり、早い時期から注目をしていました。

会社としても2015年から全社横断的なワーキンググループをつくりまして、事業部をまたいでAI化に取組み、順次開発を進めてきたというところです。その結果、業務適用自体は2016年から始めまして、2018年には国際的なコンペティション1において、衛星画像からの建物検出部門で優勝することができました。昨年度からようやくAI専門の部署ができまして、私どもが従事させていただいています。


― 素晴らしいですね。ちなみに、そのような取組みの中で苦労されてきたことなどありますか?

伊東 里保(以下、伊東):

そうですね、衛星画像や航空写真はとても容量が大きくて、計算リソースが足りなくなったりすることが多々ありまして、そこが苦労してきたことの一つですね。

カミングス ソール(以下、カミングス):

あとは自社で機械を用意して判読や研究開発を行ってきたのですが、やはり、数年たってしまうとコンピューターなどの機材が古くなってしまったりで、もっと高性能のコンピューターが出て最新のモデルが使えなくなることもあったので、常に自社で最新のインフラを維持するっていうことが難しかったです。


― 計算リソースが足りなくなるというお話だったんですが、処理する衛星の画像データってどのくらいの大きさのものを扱うんですか?

カミングス:

画像の特徴自体もちょっと違いはあるんですけれども、一般の画像だと幅が千ピクセルくらいあれば大きい方かと思いますが、衛星画像になってくると幅が数千から数万ピクセルの大きさの画像になります。

それをGPUに直接のせてみると、かなりメモリ取られてしまうこともありますので、ABCIのように高性能で、特にGPUのメモリが多いコンピューターが用意されているのは、とても私たちにとって好都合でした。

伊東:

そういった大きな幅数万ピクセルといった画像が、1枚じゃなくて10枚、20枚とか、多いときは100枚とかそういったこともあるんです。


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大規模画像の学習にも最適なABCI


― なるほど。ABCIの他にも民間の計算リソースなどは使っているんですか?

島崎:

はい、いまは当社で持っているオンプレミスの環境と、あとはABCI、他にはクラウド事業者の商用サービスと三つの環境を使い分けています。

それで、当社の中で研究の最初のフィジビリティスタディ(実行可能性調査)をやったりだとか、初学者の人たちがいろいろ試行錯誤で使うっていうのは、社内のオンプレミスの環境をメインで使っていまして、そこからより実践的な研究開発ですとか、モデルを作るというところで十分な計算機リソースが必要な場合にはABCIを使っています。そして実際の業務で画像判読を回すという段階では商用のクラウドサービスを活用するというところで、大きく三つを使い分けながら利用しております。


― ABCIはどんなふうに評価いただいてますか?

伊東:

そうですね、ABCIだとAIモデルの開発とか実装テストに必要な環境が既に整っていますし、あと、サポートとかマニュアルとか、ABCIのリリースから蓄積されてきたノウハウがオープンにされていますので、初期環境設定っていうのはほとんど必要なくて、取っ掛りやすいというところがかなり助かりました。

あとは、先ほどから何度か申し上げてますけど、計算リソースがかなり潤沢に有りますので、当社のように広域の衛星画像を撮って、その中から特定の地物を探してきてくださいっていうようなタスクがあった時に、並列で分割して処理がしやすくて、かなり時間の短縮ができるといったようなところもとても助かっています。

あと、これはABCI自体の評価ではないですが、産総研の中でAIに関するセミナーとか、コンペティションとかいろいろ開催されているので、そういったところで、いろんな企業さん、大学さんと交流できるのはとても貴重だと思います。


これからも二つの軸で拡大するAI活用


― 今後の展開についてはどんなビジョンをお持ちなんでしょうか?

島崎:

そうですね、AI自体は大きく二つの軸があるかなと思っています。

一つの軸は、いままで人がやっていた作業を、効率よく、速く行うというところでの活用です。

もう一つの軸は、AIを使うことで新しく付加価値ができてくるという部分になります。その部分が、環境の保全につながったりだとか、経済成長を助けると思っていますので、そういう新しいサービスを作っていくというところをAIで進めていきたいと思っています。

現在の取組としては、小さいながらもパスコ版のAIプラットフォームの構築を進めておりまして、社内の技術者が業務を効率化する上でも使うことができて、ゆくゆくは社外の方々にサービスを提供するというところまで視野に入れて育てていきたいなと思っています。

また、それとは別にサブスクリプション型のモニタリングサービスも提供していきます。先日、第一弾として「森林変化情報提供サービス」をリリースさせていただきました。近年、太陽光発電の開発や違法伐採などで急激な森林の伐採が進んでいまして、それらが社会問題にもなってたりするのですが、そのような森林域がどのように変化しているかというのを、定期的に衛星画像を使って計測しようというサービスになります。現在は森林の変化を切り口としたサービスだけなんですが、他にも災害関連や、先ほどお話をした建物の判読だとか、農地判読などで、順次サービスを提供していきたいと考えております。


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図.森林変化情報提供サービスのイメージ



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