利用事例

連載22回:Sky株式会社 様

製造業・農業・オフィス・インフラ、産業の変化をAIで支援

 ICTの活用は主にオフィスで進んでいましたが、近年はセンサー・カメラの性能が向上しこれまでICTを多く使わなかった分野や産業においてもICTの活用が始まっています。そして今ではICTの活用で得られたデータから新たな価値を探求するAIの活用が加速しています。 今回お話を伺う
Sky株式会社 様は、広くICTの機能をお届けするパッケージ製品と、お客様の課題を深いICTの力で解決する組込み開発、2本の柱を事業としてお持ちです。
広く、深くICTをお届けする、Sky株式会社 クライアント・システム開発事業部 河野様にお話をお伺いしました。


Sky株式会社 クライアント・システム開発事業部 河野 武 様


さまざまな分野・産業においてICT+AIの事業を展開


― 御社が携わっている事業も含めて御社のプロフィールをご紹介いただけるでしょうか?

河野 武(以下、河野):

 Sky株式会社は、独立系のソフトウェア開発会社です。今期は39年目で、パッケージソフトウェアの開発販売を行う「ICTソリューション事業部」、お客様のソフトウェア開発を支援する「クライアント・システム開発事業部」の2つの事業部があります。パッケージソフトウェアの方は、
藤原竜也さんがCM出演する「SKYSEA Client View」というクライアント運用管理ソフトウェアがあり、また少し前から山崎育三郎さんがCM出演する「SKYDIV Desktop Client」というシンクライアントシステム、他には学校向けに学習活動を支援する「SKYMENU」シリーズ、などを事業として進めています。最近では営業支援のための名刺管理サービス「SKYPCE」を立ち上げ、こちらの商品に今注力しているところです。私は「クライアント・システム開発事業部」に所属しており、業務系システム開発や、組込み開発、ソフトウェアの評価検証を主力としている事業部です。
Sky株式会社は元々組込み開発から始まった会社であり、車・モバイル・デジタルカメラ・コピー機、他にはFA・社会インフラ・医療関連などさまざまな組込み開発を行っております。


図1.Sky株式会社 様における、AI・画像認識を活用した開発実績
図1.Sky株式会社 様における、AI・画像認識を活用した開発実績


 私の専門はAI・画像認識ですが、この活動を約6年前に画像認識から始めたところです。画像認識も特にディープラーニングを使うところが主流になってきており、画像認識の活動の過程でAIにも注力し、現在AI・画像認識関連で稼働している人数は、月に120名ぐらいです。業務が拡大していくにあたり、AI・画像認識技術者の不足が深刻化しておりますので、新卒採用に力を入れるのはもちろん、キャリア採用の方の募集を積極的に行っています。AI・画像認識・データ分析に興味をお持ちの方は是非ご応募頂ければと思います。


― AI・画像認識に携われて約6年と仰ってましたが、そのAI・画像認識を始める前はどういった事をされていて、何がきっかけでAIに切り替わったのでしょうか?

河野:

 もともとデジタルカメラやコピー機といった画像を扱う組込み開発を行っていたので、その延長で画像認識の業務を6年ぐらい前から始めたところです。最初は小さい規模でしたが、画像認識で展示会に出展するようになると非常に集客がよく、その結果画像認識の業務の獲得に注力し始めた経緯です。最初はレガシィの技術で画像認識を注力してやっていましたが、進めていくうちにやはりディープラーニングを使わないと物体検出やクラス認識がうまくできないケースが出てきて、我々もディープラーニングを活用した業務に注力してきた次第です。


― ディープラーニングを活用され多岐にわたる分野へ展開されていますが、お客様のニーズが強い分野などありましたでしょうか?

河野:

 業務の実績から見ると、車の自動運転・先進運転支援システムの分野、車関連が一番大きいです。この分野は車だけでなく、例えば工事現場のショベルカーなどの建機やトラクターなどの農機なども含まれる分野です。この自動運転・先進運転支援システムは大きい分野になっています。やはり車のOEMメーカーさんや部品メーカーさんが自動運転には注力しており、これらに関係する業務の支援をさせて頂いています。ドライバーモニターやドライブレコーダーなど後付け機器において利用する認識技術や、アルゴリズム・モデル選定など我々が主導してAI部分を検討するケースもあります。車の画像認識だけとってみても、前方カメラ・周辺カメラ・後方カメラ、それぞれで部署を作るぐらい認識する対象物は非常に多いです。


オフィスでの働きやすさを画像認識で自ら実践


― AI技術が自動車や工事現場など多様な分野で活用が進んでいますが、他の分野ではいかがでしょうか?

河野:

 弊社のケースになりますが、弊社の会議室にはカメラが付いています。それによって会議室の映像が見えるのですが、せっかく会議室の映像を見られるのなら、もっと何か他の事に使えるのでは?という話になりました。コロナ禍前の話ですが、会議室を予約しているが実際は使われないケースが散見され、これをどうにかしたい、という要望がありました。そこで弊社内の会議室予約システムと連携して、予約システムに予約が入っているけど会議室に人が映っていない、という場合に会議室の予約者に連絡が行って、ボタンを押したら会議室の予約が解除できるシステムになっています。


― 会議室の予約によくある事例ですね。会議室の空きチェック以外にも自動議事録作成などの応用が思い浮かびますがいかがでしょうか?

河野:

 他の応用事例では、コロナが流行し始めた頃に三密検知として、「会議室に想定より多く人がいる」、「利用時間が長い」、「人と人の距離感」を判定して、密接になっていないかアラートを上げる機能を作り、一時は運用していたこともあります。また会議室で人を検知すると顔認証から「誰々さんが会議室にいた」、という記録ができるようにして人を探しやすくする機能を運用直前まで進んでいました。ただ残念ながら、運用開始しようとしたタイミングがちょうどコロナ禍に入り緊急事態宣言が出たところで、人がそもそも出社しなくなり、機能として求められなくなって運用を止めた次第です。


― 顔認証にもトライされたとのことですが、ここのプライバシーへの配慮・セキュリティ面での課題などはありましたでしょうか?

河野:

 実際は運用には至らず先には進めなかったのですが、当然プライバシーの話でもあるので運用にあたり本人同意は必要との認識でした。ただこの時は同意を全員から取るのは難しい、かつそもそも探したい人は誰か?ということから、役員を含む管理職以上のメンバーに絞ることでスモールスタートの形としていました。


数値データ分析で生活インフラ分野へ事業拡大


― 車やオフィスにおいてAIの活用を進めている中、今後はどういった分野に拡大するのか、計画や技術開発の目標などはありますか?

河野:

 もともと画像認識を中心としてAIを始めたため、今後も画像認識を中心に進めていくことになると思います。その一方で、技術的には数値によるデータ分析にも注力するところです。数値によるデータ分析は、需要が画像認識よりさらに大きい範囲になると思われるためです。適用する産業分野では、車・医療・製造FAが大きなターゲットです。その他では通信インフラ、電気ガスなどの生活インフラの分野です。


― 今言われた分野だけでも多岐に渡りそれらの分野で扱われるデータもさまざまと思うのですが、それぞれの分野で一から始めるのでしょうか?何か基礎技術を持って応用的に取り組まれるのでしょうか?

河野:

 分野ごとのドメイン知識はその分野・現場に入って把握していくスタンスで、これから実績を積み上げてやっていく計画です。内容としては、故障予測・異常検知が一番多く、例えば、ネットワークトラフィック量から異常検知をする、振動センサーの情報から異常検知を取る、などです。ネットワークトラフィック量では、ある放送局様とネットワークトラフィック量の監視を共同研究しています。放送局内の機器が接続されているローカルネットワークが今後外部のインターネットに接続する流れがあり、この時どうセキュリティを担保するかが課題になっています。恒常的にセキュリティ監視が働くように、自己学習型で何もしなくても異常検知をしてくれるものを新しい取り組みとして開発してきました。放送局内のいくつかあるローカルネットワークのそれぞれのネットワークトラフィック量、パケットの数ですがこれを波形として監視しLSTM1を使って予測を立て、予測と実測値が乖離するケースを異常として検知する手法を進めています。最新の2週間分のデータを学習したモデルを毎日一回作り、常に新しいモデルとデータで予測できる形にしています。


図2.放送局様におけるネットワークトラフィック量の監視の例
図2.放送局様におけるネットワークトラフィック量の監視の例


― 放送局さんのIPネットワークであれば、大きな変化や異常は少ないと思うのですが、予測は立つのでしょうか?

河野:

 まず異常が少ないかと言うと、少ないです。これまで異常が出ていなかったようなところなので基本的に異常は無いです。2週間分のデータで足りるか、と言う話は部分的に見れば不要な所もありますが、ただテレビ番組のデータであれば曜日ごとに特性が変わってくるので、曜日ごとの波形特性を捉える形ですね。1か月ほどのデータ、2週間分のデータ、それぞれ試してみましたが精度感はそれほど変わらず、しかし1日で学習を全部回しきらないといけなく、学習モデルの7つを全部回しきるために、大よそ2週間分のデータぐらいが適正という形に至りました。加えて、3つの系統があり、データ量の多いもの・少ないもの、周期性が無いようなもの、それぞれの特性に合わせてまとめ込み、学習モデルで見ています。この7つの学習モデルをABCIでひたすら学習させ精度検証を行っていました。


― ABCIにはNVIDIAのV100 GPUを搭載した計算ノード(V)、同じくNVIDIAのA100 GPUを搭載した計算ノード(A)、2種類ありますが、使い分けとかされているのでしょうか?

河野:

 最近の案件では、極力計算ノード(A)を使えれば使おうとしています。ただA100 GPUを使おうとすると、CUDA環境などを基本的に最新に揃えないといけなくて、それだとお客様の要望にあたるTensorFlowのバージョンや、場合によってはPyTorchなど、それぞれのバージョンの組みあわせが合わないことがあり、うまく行くケースだけA100 GPUを使うようにしています。お客様の要件や、またお客様が一度作ったシステムにおいてTensorFlowのバージョンがここまでしか対応していなかった、などいろいろ条件があります。我々が主導してモデル選定したケースにおいても、基本的にはOSSで公開されているモデルを活用しますが、それでも新しいものを使おうとすると上手く動かなかったりすることも結構あります。


― そういった条件があるとABCIに限らず、他社のクラウドサービスでも同様に難しい部分でもありますね。

河野:

 そうですね。もう一つ条件がありまして、ABCIも他社のクラウドサービスも当社から見れば同じクラウドサービスに当たるのですが、データをクラウドに上げて良いかどうかは1つ判断基準になります。もしデータをクラウドに上げてはダメだとなると、もうオンプレミスでしかできません。クラウドに上げて良いものに関しては極力ABCIを活用する形でやらせて頂いています。


― 最近、クラウドサービスが一般的に認識されつつあり、データをクラウドに上げることに対して抵抗感が少なくなってきた印象もあるのですが、そこは難しい問題とするお客様はまだまだ多いのでしょうか?

河野:

 我々は組込み開発のお客様が結構いますので、データを社内から外に出すところには一定の壁が基本的にはあります。そこに問題ないとするお客様は、お客様自身がクラウドサービスを使っているケースが多いです。逆に完全にオンプレミスでないとダメだ、というケースは少ないですが、扱う機関や情報によってはオンプレミスを利用されるお客様も残っています。


― クラウドサービスを使う上でいろいろ条件がある中で、ABCIが使いやすい点、逆に難しい点などありましたでしょうか?

河野:

 非常に使いやすいと思っている点は、やはり並行して学習を何本でも走らせることができる点ですね。当然ノードが取れればという話ですが、基本的に何等かの節電時やイベント開催中であるとか、そういったことがなければ基本的にノードが取れるので、例えば先ほどの7つの学習を並列に一気にかけられる点は使いやすいです。我々のローカル環境ではさすがにマルチノード学習は難しいので、必要に応じてパワーをかけられる点は使いやすい点になります。
 あとはコストですね。コストパフォーマンスは非常に高いと感じております。マシンノード以外にベースとして使う部分に課金がないので、その点は大きいです。あとポイントがあるうちは特にマシンリソースに制限がないのでいくらでも学習を走らせることができますし、複数の業務で使っても問題ない点ですね。この点においては、他のクラウドサービスを使っていると恐ろしいと感じることはあります。自分が使う分にはまだいいのですが、他の人に使われるとどんなことになるのか恐ろしい、という感覚があります。インスタンスの落とし忘れが起こった日にはもう大変です。


― コストパフォーマンス以外にも、ABCIのいろいろな利便性を感じ取っていただいてありがとうございます。
  ABCIに関して利用検討している人へ、アドバイスなどございますか?

河野:

 繰り返しになりますが、いろいろ学習を並行して走らせないといけないであるとか、学習した結果を見ないと判定できない、ということは普通にありますので、いろいろパラメータを変えて複数走らせるケース、負荷の高い学習を行うケースには、まずABCIを使った方がいいのでは、と思います。我々としても、今後AI業務をより拡大させていくつもりです。そのAI業務のマシンリソースとしてABCIをこれからも継続して活用させて頂く考えです。


― 本日はありがとうございました。


Sky株式会社 https://www.skygroup.jp/


  1. Long Short Term Memory(長・短期メモリ)、ディープラーニングで用いられるニューラルネットワークの1種。時系列が長いデータでも学習ができるように考案された学習モデル。