利用事例

連載25回:株式会社 T2 様

AI・自動運転技術で新しい物流インフラを構築する

 インターネットで購入した商品の輸送や、企業活動においては原材料や部品、そして完成品の輸送など、商品やモノを運ぶ「物流」は私たちの生活に密接しており、そして欠かせない重要な社会インフラです。しかし物流業界では、働き方改革関連法によって働き手の不足・高齢化といった構造的課題が顕著化し、貨物の輸送能力が不足する「2024年問題」が取りざたされています。貨物の輸送能力の不足をカバーし、働き手の不足・高齢化の構造的課題の解決が急がれています。
 AI・自動運転技術を用いた新たな物流インフラを構築し、物流業界の革新に挑む、株式会社 T2 技術開発部門長の辻様にお話を伺いました。


株式会社 T2 技術開発部門長 辻 勇気 様

株式会社 T2
技術開発部門長 辻 勇気 様


幹線輸送サービスに自動運転技術を活用


― 御社のホームページを拝見するとトラックの自動運転技術に携わっていらっしゃるようですが、自動運転技術を目指す背景と御社が取り組む事業についてお教えいただけるでしょうか?

辻 勇気(以下、辻):

 株式会社 T2(以下、T2)は、自動運転技術を活用した物流インフラを構築し、日本の物流システムを支えることを事業目標として運営しております。私たちは、幹線輸送(高速道路を使った長距離輸送)におけるレベル4(限定条件)自動運転技術を活用した配送サービスの提供を目指しております。最初のターゲットは、幹線輸送の市場でも規模感のある東京~大阪間です。T2は単なる自動運転システムの会社ではなく、輸送会社としてオペレーションまで最適化した上でサービスを提供する予定です。
 レベル4の自動運転技術とは、限定領域下で通常時も緊急時も全てシステムで対応を行うというものです。例えばセンサーが故障したなどの突発の事象が発生しても、路肩に退避するなどの対応を自動運転システムで実施します。


― 何かエラーやトラブル発生時の対応には、人は介在しないのでしょうか?

辻:

 ドライバー席に人が乗らない状態で東京~大阪間を走りきることを目指しています。緊急時への対応用に遠隔監視・遠隔操作を導入し、システムに異常をきたした時に車両の周辺状況を遠隔監視で確認し、遠隔操作で補助を行うなど、遠方のオペレータがシステムをサポートする役割を担うことを考えています。
 私たちは自動運転システムの開発だけではなく、幹線輸送サービスを提供するために必要となる全てのシステムを協力会社様と共に構築していく考えです。


図1. 自動運転の実験用トラック車両

図1. 自動運転の実験用トラック車両


次世代の物流インフラをオールジャパンの体制で構築する


― 物流業界として克服すべき課題があると思うのですが、どのように取り組まれるのでしょうか?

辻:

 物流現場の課題に待機時間というものがあります。荷物を物流拠点に運んだ後にバース1に入れるまでの待ち時間が生じることです。そういった待機時間低減の一つの解決策として、私たちの自動運転システムとスワップボディコンテナ2を使ってのオペレーション最適化を考えています。他には、一方の道、例えば東京から大阪へ向かう道では荷物が満載だが、逆方向の道、大阪から東京へ向かう道では荷物を積んでいない、または低積載な場合があります。これも往路は宅急便、復路は路線便といった異なる業界の荷物を組み合わせて輸送することで効率化を図りたいと考えています。これは現在の有人運転でも可能ではありますが、24時間いつでも走行可能な自動運転車だからこそ、より柔軟な対応ができると考えております。ただし、自動運転システムはどのような環境でも走れるかというと、そうではありません。例えば大雨の時に走れるかと言うと、何かの制限が生じます。初期はリードタイム、荷物が運ばれるリミットタイムが緩やかな業界から参入するということも考えています。


― 自動運転システムは、どこかで有人運転と無人運転の切替わりが発生すると思います。またバースなどの物流施設も自動運転システムへの対応が必要かと思います。自動運転システムのために施設の対応が必要になると思いますが、それらも整備されるのでしょうか?

辻:

 切り替え拠点をどこに置くかが自動運転システムを用いたオペレーションを構築する上で大事だと考えております。既存の切り替え拠点を使おうとすると、一般道路にある施設を使う必要がでてきます。そうすると私たちの自動運転システムも高速道路を出て一般道を走る必要が出てきます。自動運転システムが一般道の走行をサポートするためには技術開発の項目が増え、またオペレーションも複雑化し難しくなってきます。
 そこでT2は、高速道路直結型の次世代物流拠点を有人運転と無人運転の切り替え拠点として利用することで、高速道路のみで完結した自動運転システムによる幹線輸送を構築する考えです。また2023年6月と8月に資金調達を行いました。この資金調達には通信会社や保険会社など、各分野のトップ企業の方々にご参画頂いています。トップ企業の皆さんと一緒にオールジャパンの体制で次世代の物流インフラを構築することを目指しています。


周辺環境認識モデルをABCIを用いて研究開発


― 自動運転システムの研究においては、具体的にどのようなことを進めていらっしゃるのでしょうか?

辻:

 自動運転システムが公道を走るためには、車両周辺の環境を認識する必要があります。例えば、前方に車が走っている、後方にはバイクがいる、など周辺の障害物がどのような状態で存在しているかを正確に認識する必要があります。現在は、自動運転トラックに付けているカメラ、LiDARセンサーから得られた画像と点群を用いて周囲の障害物を認識しています。この周辺環境認識技術の研究にABCIを使わせて頂いております。



― 2023年の4月に、高速道路での実証実験を成功されていますが、自動運転システムにおいて現在はどのような課題があるのでしょうか?

辻:

 最近は、東京湾岸道路の湾岸市川ICから湾岸習志野ICまで往復15kmの中で、人による介入なしで自動走行ができるようになってきました。直近の課題は、車両運動制御の精度です。一般乗用車に比べると10トントラックは車両重量が重く、またすべてが電子制御システムではなく油圧システムを挟むため、車両運動制御が難しいです。制御性能を高めるため、実験を重ねてデータ取りを行っており、日々アルゴリズムの改善を行っております。他には、遠距離物体検出の精度改善が課題となっております。我々の自動運転システムは時速80キロで走るので、少なくとも200m先の車やバイクなど障害物を検出する必要があります。この遠距離物体検出などの認識アルゴリズムの改善にABCIの計算パワーが欠かせないところです。
 今では自動走行ができるようになってきましたが、最初のころはまっすぐの道路でも自動走行させると車両がふらついて、車両の制御にはかなり苦労していました。実験を重ねてデータ取りしながら日々改善を重ねることで、直線の道路でも曲線の道路でも走れるようなシステムの精度まで仕上げることができました。


― 雨や夜間の走行など周りの環境条件によっては、車両周辺の認識が難しいことがあるかと思いますが、実際どうでしょうか?

辻:

 今の機械学習モデルで訓練する際に使っているデータセットに含まれていないケースは、検出性能も下がり難しい部分です。レアケースも含めてしっかりと公道でデータを集めながらデータセットの分布をどんどん拡大して、どのようなケースでも認識できるようにしたいと考えております。今、意識しているのは落下物への対応です。例えばバイクや自動車など、ある程度大きいものであれば検出しやすいですが、タイヤや木など落下物を検出するのは難しいです。データを上手く集めて、シミュレーションも活用しながら対応しようと考えています。
 現在は、カメラとLiDARの2つのセンサーを使っていますが、今後は、カメラとLiDARに加えレーダーの3つのセンサーを上手く組み合わせることを考えています。カメラは色彩情報などコンテキストが判断できるので検出精度が高いですが、一方で距離が分からないという欠点があります。LiDARによる点群データは、ノイズが多くコンテキスト情報は分かりづらいが距離が分かるメリットがあります。ここにレーダーセンサーを加え、それぞれの欠点を補いながらロバストな認識アルゴリズムを作り、認識精度を高めようと思います。


大量のGPUを常に利用できる環境はABCI以外になかった


― 自動運転システムで扱うデータは多いと思うのですが、今後さらにレーダーによるデータも加わるとすると、データの処理は大変ではないでしょうか?

辻:

 やはり、私たちのデータサイズは大きいですし、モデルのサイズも大きいです。データとモデルサイズが大きいので、GPUはA100、V100以上の性能を持っていて、かつある程度のGPUの数量を持っていて、さらに常に利用できる環境が必要でした。このような条件を取り揃えているのはABCI以外にありませんでした。巨大なプラットフォームは世の中には存在しますが、コストリーズナブルに、かつ安定して大量のGPUが使えるプラットフォームは他になく、ABCIの利用を選択しました。
 一方で、コンテナイメージの扱いがSingularity中心になっており、Dockerイメージがそのまま使えない部分は使いづらさを感じています。それでも、モデルの訓練にABCIを使っていて感じるところは、データのI/Oも含めてしっかり高速ですし、ある程度の環境構築さえしてしまえば全く不便なく使えています。その結果として、モデルの訓練も早く、エンジニアリング観点で見ても不便さは感じることは無く、本当に使いやすいと思っています。コストリーズナブルに、これだけ自由度が高くいろいろできるインフラは他になく、ABCIで本当に良かったと思っています。


― ありがとうございます。おかげさまで今ではABCIをご利用される方が増えてきております。

辻:

 多くの方が利用されていることもあって、最近なかなかジョブが走らない、訓練が始まらないこともあります。そこは仕方ないのですが、今後より良いGPUを増設していただけると大変ありがたいです。今は計算リソースの需要に対して追いついていないのかもしれませんが、計算リソースの需要があるときにしっかり使えるように整えて頂けると、本当に使いやすくなってくると思います。


― 大規模言語モデルや生成AIなど、さらに計算リソースが必要なAIが登場してきています。

辻:

 今後、認識用のAIモデルを作っていく際には、大規模言語モデルや生成AIを組み合わせたものは使っていきたいと考えています。最近の学会でも大規模言語モデルや生成AIを用いたシミュレーションが発表されており、自動運転業界でも新しい事例が出てきています。ABCIには生成AIなどの新しい需要にも対応したGPU含めたリソースの拡充を期待しております。


― 貴重なご要望までありがとうございました。皆様の期待に応えられるABCIでありたいと思います。


株式会社 T2 https://t2.auto/


  1. バース:荷物の積み降ろしのためにトラックを停車する場所のこと。バースの数には限りがあり、バースの数より到着したトラックの数が多いとトラックは待機せざるを得なくなり「待機時間」が発生する。 

  2. スワップボディコンテナ:トラックと荷物を積載する荷台(コンテナ)部分が脱着できる車両で、コンテナだけを乗せ換えることで荷物の積み降ろしが必要なく、柔軟な運行スケジュールを可能にする。